個人で開業している先生方の中には、「診療所を法人化するべきか」「法人化のメリットはなんだろう?」とお悩みの先生方もおられるのではないでしょうか?
このページでは、医療法人に関する基礎知識から必要となる要件、得られるメリット、注意点について詳しく解説していきます。
法人化するべきかお悩みの先生方はぜひ参考にしてください。
医療法人とは?
1.医療法人ってどんな組織?
医療法人とは、病院やクリニック(診療所)、介護老人保健施設などを運営するために設立される特別な法人です。
個人経営のクリニックとは異なり、都道府県知事の認可を受けて設立される「公的な性格」を持った組織といえます。
2.本業以外にできること(附帯業務)
医療法人は、本来の医療業務に支障がない範囲で、医療に関連する以下のような「附帯業務」を行うことができます。
| 〇 教育・研究:医療従事者の育成や、医学・歯学の研究 〇 健康づくり:メディカルフィットネスや、温泉を利用した健康増進施設 〇 介護・福祉:有料老人ホームの設置や、指定された社会福祉事業 〇 その他:巡回診療や、保健衛生に関する特定の業務 |
これらの附帯業務を行うには、法人のルールである「定款」に定めておく必要があります。
新しく業務を始める際は、事前に事業計画書などを提出し、都道府県の認可を受ける手続きが必要となります。
3.法人を支える「理事」の役割
医療法人には、運営の意思決定を行う「理事」を3名以上置く必要があります。
【理事になれるのは?】
理事は実際に法人の運営に携わる方でなければならないため、名前だけの就任は認められません。
また、以下のケースに当てはまる方は原則として理事になることができません。
- 未成年の方、成年被後見人・被保佐人の方
- 過去に医事法関連で罰金以上の刑を受け、2年を経過していない方
- 公務員の方(法律により兼業が禁止されているため)
- 取引のある営利法人の役員の方(※取引規模が小さい場合など、例外もあります)
4.運営をチェックする「監事」の役割
法人の業務やお金の流れが正しく行われているかをチェック(監査)するために、1名以上の「監事」を置くことが義務付けられています。
【監事の公平性を保つために】
監事は、中立な立場でチェックを行う役割となります。
そのため、以下のような方は就任できません。
- その医療法人の「理事」や「スタッフ」を兼ねている方
- 理事長の配偶者、親、子供、兄弟姉妹(客観的な判断を保つため)
- 顧問税理士など、法人の決算に直接関わっている方
- その他、法人と特別な利害関係がある方
監事は理事会に出席し、内容を確認する重要な責任を負います。
「名前を貸すだけ」の就任は認められませんので、適任者を選任する必要があります。
医療法人設立のための「3つの基準」
医療法人を設立するには、法律で定められた「人・資産・場所」の3つの要件をすべてクリアし、それを設立後も維持し続ける必要があります。
これらは申請書さえ整えば良いというものではなく、実態として条件を満たしているか厳しく審査されます。
1.【人的要件】人に関する基準
法人を構成するメンバーと、運営を行う役員についての決まりです。
社員は3名以上
ここが誤解されやすいのですが、 ここでの「社員」とは、従業員(スタッフ)のことではなく、株式会社でいう「株主」のような議決権を持つ人のことです。
理事長先生のほか、配偶者やご親族などがなるケースが一般的です。
役員:理事3名以上 + 監事1名以上
- 理事(経営陣)と監事(監査役)が必要です。
- 理事長は、原則として「医師または歯科医師」でなければなりません。
- 管理者(院長)は、必ず理事に入らなければなりません。
- 監事はチェック役なので、法人の理事やスタッフが兼ねることはできません。(監事の兼務の禁止)
2.【資産要件】お金と財産に関する基準
安定した診療を続けるために、十分な財産的基盤が求められます。
- 2ヶ月分の運転資金の確保
なぜ「2ヶ月分」?と思われるかと思いますが、 保険診療の報酬が入金されるまでには、診療月から約2ヶ月のタイムラグがあるためです。
その間、収入がゼロでも家賃や給与を支払えるだけの現金(預金)を持っていることを証明する必要があります。
「現物出資」の活用
現金だけでなく、現在クリニックで使用している医療機器、内装設備、車両などを法人の財産として拠出(現物出資)することも可能です。
ただし、その価値を証明する書類や、負債(ローン)の引き継ぎには複雑な手続きが必要となります。
3.【施設要件】場所に関する基準
医療法人は「医療を提供する場所」が確保されていなければなりません。
拠点(病院・診療所など)の確保
少なくとも1箇所以上の医療施設が必要となります。
賃貸契約の名義変更
現在、先生の個人名義で借りているテナント等は、「法人名義」で契約し直すか、「法人設立後に契約を引き継ぐ」という確約書(覚書)を大家さんと交わす必要があります。
この点がスムーズにいかないと申請が遅れる原因になりますので、事前の根回しが重要となります。
医療法人化の4つの大きなメリット
個人事業から医療法人へ移行することで、経営のステージは大きく変わります。
主なメリットを4つの視点で解説します。
1.【節税】手元に残る資金を最大化できる
法人化の最大の魅力は、税負担をコントロールしやすくなる点です。
- 税率の差によるメリット
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」で、最大45%(住民税を合わせると約55%)にもなります。一方、法人税は最大でも約23%程度の一定範囲に収まります。 - 「給与所得控除」が使える
先生ご自身やご家族に「役員報酬」を支払うことで、所得を分散できます。さらに、支払われた給与には「給与所得控除」が適用されるため、世帯全体の課税対象額を大きく抑えることが可能です。 - 経費の幅が広がる
法人名義で生命保険に加入し、その保険料を一定の範囲で経費(損金)に算入できるなど、個人事業主にはない節税の選択肢が増えます。
2.【社会的信用】融資と採用に強くなる
都道府県知事の厳しい審査をパスした「医療法人」という名称は、公的なお墨付きを得たことを意味します。
- 資金調達がスムーズに
個人資産と法人の資産が明確に分離され、財務諸表を毎年作成・報告する義務があるため、金融機関からの信頼が格段に高まります。
結果として、設備投資のための融資が受けやすくなります。 - 優秀なスタッフの確保
「社会保険の完備」や「組織としての安定性」を重視する看護師や事務スタッフは多く、求人募集時の応募数や質の向上につながります。
3.【事業承継】スムーズな代替わりと相続対策
個人クリニックの場合、院長が亡くなると保健所への開設許可申請をやり直す必要がありますが、法人はそのまま存続します。
- 相続税の負担を軽減
現在主流の「出資持分のない医療法人」では、法人の中に貯まった利益(内部留保)に対して相続税がかかりません。 - 手続きの簡略化
理事長の変更手続きだけで済むため、診療を止めることなく次世代へバトンタッチできます。
これは、患者さんにとっても「ずっと通い続けられる」という安心感につながります。
4.【事業規模の拡大】医療・介護の多角経営が可能に
個人では制限されていた「2つ目のクリニック(分院)」の開設が可能になります。
- 分院展開と付帯業務
複数の診療所を運営できるほか、訪問看護ステーション、介護老人保健施設、有料老人ホームなどの運営も行えます。 - 地域ニーズへの対応
医療と介護を一体的に提供することで、地域の健康インフラとしての価値を高め、経営の安定性を強固にすることができます。
医療法人化の前に知っておきたい「4つの注意点」
医療法人化は経営の安定に寄与しますが、個人事業主時代にはなかった義務や制約も発生します。
メリットと比較して、慎重に判断すべきポイントをまとめました。
1.【事務負担】手続きと書類管理が煩雑になる
法人は「公的な組織」として扱われるため、行政への報告義務が厳格になります。
- 毎年の事業報告
決算終了後3ヶ月以内に、資産や業務の内容をまとめた報告書を都道府県知事に提出しなければなりません。
これは閲覧対象となるため、経営の透明性が求められます。 - 登記事務の発生
理事の任期満了(通常2年)ごとの重任登記や、資産の総額に変更があった際の登記など、法務局での手続きが頻繁に発生します。 - 専門家のサポートが不可欠
事務作業を医師一人で行うのは現実的ではありません。
税理士や行政書士といった専門家への委託費用を、あらかじめ運営コストとして見込んでおくことも必要かもしれません。
2.【社会保険】法定福利費の負担が増える
法人化すると、スタッフの人数に関わらず「社会保険(健康保険・厚生年金)」への加入が法律で義務付けられます。
- コスト増への対策
社会保険料の約半分は法人が負担するため、個人時代よりも人件費が増大します。 - 採用面でのメリットとの裏返し
負担は増えますが、その分スタッフにとっては「手厚い福利厚生」となり、離職防止や採用力強化につながるという側面もあります。 - 医師国保の継続
医師会に加入している場合などは、条件を満たせば「医師国保」を継続しつつ、年金のみ「厚生年金」に加入する形が取れるケースもあります。
3.【解散の難易度】「やっぱり個人に戻る」は難しい
医療法人は、株式会社以上に「やめること」が難しい組織です。
- 行政の認可が必要
経営者の都合だけで勝手に解散することはできず、知事の認可が必要です。 - 残った財産の行方
現在の「出資持分のない医療法人」を解散する場合、法人に残った財産は国や地方公共団体などに帰属することになります。
「解散して残ったお金を個人の懐に入れる」ことはできないため、事前の出口戦略が重要です。 - 手続きの厳格さ
社員総会で4分の3以上の賛成を得るなど、法律(医療法第55条)に基づいたステップを一つでも踏み外すと、解散自体が無効になる恐れがあります。
4.【利益配分】配当が禁止されている
医療法人の大きな特徴として、非営利性が求められるため「利益の配当」が一切禁止されています。
- 剰余金の分配禁止
株式会社のように「儲かったから株主(出資者)にお金を配る」ことはできません。
利益はあくまで、設備投資や内部留保、役員報酬として活用することになります。 - MS法人との使い分け
医療法人ではできない「自由度の高い事業」や「資産管理」を行うために、別途MS法人(メディカルサービス法人)を設立し、医療法人と連携させる経営手法が一般的です。
納得のいく「医療法人化」のために
医療法人化は、クリニックの経営を次のステージへと引き上げる大きなチャンスです。
節税効果の最大化や社会的信用の向上、そして次世代へのスムーズな継承など、個人事業主では得られないメリットが数多くあります。
その一方で、事務手続きの複雑さや、一度法人化すると後戻りが難しいといった、慎重に検討すべき点も確かに存在します。
大切なのは、「どちらが良いか」という正解を探すことではなく、「先生のライフプランや理想とする医療に、どちらがフィットするか」を見極めることです。
長期的な視点を持ち、メリットと注意点の双方を正しく理解したうえで、ベストな選択を検討していきましょう。
各種許認可申請について
その他の許認可申請についてお調べの方は、ひかり行政書士法人の総合サイト「許認可.net」もぜひご覧ください。
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